近年、大きな地震が頻発している。日本においては、震度6強以上の地震は、2011年3月に発生した「東日本大震災」以降、15回にも及んでいる(参考1)。今年4月台湾東部でも大地震が発生した。いつ、どこで大地震が発生するかわからない状況である。大地震は、被災地域を壊滅的な状況にしてしまい、被災者の心のケアやインフラの復旧・復興に多大な時間と費用を必要とする。本年1月1日に発生した能登半島地震においても、4月20日現在、いつ完全に復旧、復興できるか見通しがつかない状況である。
大地震等の災害が発生すると、生活に最低限必要な住居・ライフライン・交通網を復旧し、さらに産業を復興していく。復興においては、将来にわたって持続可能な社会の形成をめざしていく、新たな「なりわい」創生により、活力ある地域社会をつくっていく必要がある。
技術士倫理綱領に、「技術士は、持続可能な社会の実現に向けて解決すべき環境・経済・社会の諸課題に積極的に取り組む」とある。日本技術士会経営工学部会でも「持続可能で幸福な社会の実現と経営工学」を経営工学ビジョン2050に掲げている。これを2011年に発生した東日本大震災の被災地域で実践し、被災地復興を支援したいとの熱い想いを持った経営工学部会の有志が「岩手三陸協力ワーキンググループ(以下、岩手三陸協力WG)」を立ち上げた。
「岩手三陸協力WG」では、復興に向けて「なりわい創造」を志す起業家を対象にした「大船渡なりわい未来塾」を開塾した。塾では事業立ち上げに必要な知識の講義とともに、参加者が考えている事業の計画書作成支援を行ってきた。6年間で57名の卒塾生のうち18名が実際に起業や第2創業、事業拡大をしている。また、塾終了後は定期的に現地を訪問し、卒塾生のフォローにも努めた。被災地において、起業家が新たな事業を起こすことは、復興そのものである。2022年には、大船渡市長から日本技術士会に、「大船渡なりわい未来塾」に対する感謝状が贈られ、「大船渡なりわい未来塾」は一定の成果があったといえる。
大船渡なりわい未来塾 講義風景
大船渡市長からの感謝状
岩手三陸協力WG」は2020年に解散したが、この経験を活かし、被災地だけでなく、各地域の活性化に貢献すべく2020年に「岩手三陸協力WG」の一部のメンバーが、新たに「なりわい支援ワーキンググループ(以下、なりわい支援WG)」を設立した。筆者は、2019年より「岩手三陸協力WG」に参画し、現在も「なりわい支援WG」のメンバーとして活動している。
日本全国の各地域では過疎化が進んでいる。人口戦略会議(民間の立場から人口減少問題の解決をめざし立ち上げられた団体)では、2020年から2050年までに全国1729自治体の4割にあたる744自治体が消滅の可能性があると分析している。20~39歳の女性人口が半減し、出生数が減少する可能性があるためである。一方で、「自立持続可能性自治体」は65で、全自治体の4%に満たないとしている(参考2)。
内閣府は2015年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、将来にわたって活力ある日本社会を維持することをめざしている。「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は①地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする ②地方に新しいひとの流れをつくる ③若い世代の結婚・出産の子育ての希望をかなえる ④時代にあった地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携する を目標にしている。全国の各自治体は本戦略にもとづいて地域活性化に向けた取り組みを推進している。
「なりわい支援WG」では、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に取り組む地域の活性化に向けた「まちおこし塾」と「なりわい塾」による人財育成を活動目標としている。「まちおこし塾」で新たなまちおこし事業を立案し、「なりわい塾」でまちおこし事業の事業計画を作成する流れである。早期に地域活性化に貢献できるよう、現在PRを行っている。
「岩手三陸協力WG」の志を「なりわい支援WG」が受け継いだ。今後、持続可能な社会の実現をめざした社会貢献活動を継続実施していくことが、技術士の使命のひとつと考えている。