離島を旅する

 北九州に単身赴任している。かねてから興味のあった離島めぐりを始めた。自宅のある関東からだと遠く、費用がかかるし、この機会を逃すと一生訪れる機会はないと思ったからだ。

 まず、最初に選んだのは国境の島『対馬』。元寇に興味があったことと国防最前線の遺構を見学したかった。単身赴任用に買った中古の軽自動車で移動するため、フェリーでアクセスすることにした。全長が短くフェリー代が安いと思われたが、予想外に高い。片道2万円少々(ドライバー1名分を含む)。一人旅が基本の自分であるが、交通費を抑えるため、会社の仲間2名と乗り込むことにした。

 22時に博多港を出港。フェリーに積まれた車両のほとんどがトラック。乗用車は自分の車を含めてたった3台。フェリーが島の生活を支えている。ほんのり汗臭いベッドに潜り込み、波の荒い満月の日本海を北上。沖に出ると船体はピッチング、ローリングで大振れ。眠りが浅い。隠岐を経由して厳原港に午前6時着。日の出を見ながら朝食をとり、島北半分の散策開始、姫神山砲台跡は映画のセットでも使えそう。赤レンガと砂岩で静かな佇まい。対馬野生生物保護センターではツシマヤマネコを見学。眉間の縦縞が可愛い。比田勝の海岸も自然豊かで美しかった。夜は居酒屋で海の幸を堪能した。翌朝は小茂田浜神社を訪問。時は文永の役。3万の元軍を迎え撃つ対馬島主・宗助国と家臣団80余騎。奮戦するも多勢に無勢。激戦の後、玉砕。島は蹂躙されてしまう。島が外周をめぐり、島一周を走破した。帰路のフェリーは酔い止めを飲み、快適に帰路につくことができた。

 

姫神山砲台跡

比田勝海岸

小茂田浜神社


 

 次に訪れたのが世界遺産の島『屋久島』。対馬旅行から3か月。少々金欠気味でもうしばらく離島の旅は遠慮しようと思ったところ、対馬旅行(大人の修学旅行)で盛り上がった仲間の強い要望があり、応じることにした。持ちつ持たれつ。目的は縄文杉。貯まったマイレージを行使し無料航空券利用で空路、福岡から直行便で屋久島へ。小雨の降るなか、屋久島空港に着陸。低層の雲で山は裾野しか見えないが、海から急角度で稜線が立ち上がり、険しい山々がそびえることが伺えた。当日はレンタカーで荒川登山口を下調べして、早めに休んだ。

 朝5時起床して、6時に荒川登山口に到着。オフシーズン(2月)であるが、縄文杉を目指す人は多い。軽食を採り、カッパを着て、いざ出発。懐中電灯を手に3人が列をなして暗闇のトロッコ道を上っていく。鉄道路線のため、勾配は極めて緩やか。トロッコが走ることはない。8キロ少々歩いたところで、トロッコ道が終わり、険しい山道を登っていく。途中にウィルソン株(株から上を見上げると開口部がハート形に見える)、大王杉、夫婦杉などのみながら、苔生す杉の森を歩く。沢の流れや見たことのないコケやシダ。山国育ちの自分であるが、経験のない幻想的な風景だった。お昼前にやっと縄文杉に到着した。疲れも吹き飛び、皆と縄文杉を見つめた。来た道をトレースして帰る。17時前にやっと荒川登山口に戻ってきた。当該行程で32,000歩。1日の歩数で過去最大だった。翌朝は千尋の滝を散策。本州ではなかなか見られない雄大な滝だった。

 昨日は下山後、クタクタで『2度と縄文杉を見たくない』と思った。しかし、翌日になると『なんと貴重な経験をしたことか』とひしひしと感じた。世界遺産に興味のある子供たちや女房を連れてまた訪れたい、この感動を家族と共有したいと思ったのが不思議である。

 離島にアクセスするにはお金と時間がかかる。しかし、行ってみるとかつて見たことがない風景や歴史を知ることができる。おそらく、あと2年ぐらい単身赴任が続く。次は奄美大島に一人旅したいと思っている。

 

トロッコ道

登山道

ウィルソン株


(難波)