老大木の魅力(山崎正踐)

観光地などを廻った時に、近くにある“老大木”を見るのは私の楽しみの一つである。猛暑の夏や、厳寒の冬に耐え大きく成長し、さらに蔦が絡み、苔むした老木の姿は、心が休まる。その中の幾つかには、威厳や神々しさが備わっている。ドイツ民謡の“モミの木”に歌われているのと同じ印象である。

ところで、老大木には癒し効果があると言われる。つまり、1)木の香りであるフォトンチッドを嗅ぐことでの癒し効果。2)巨木に触れ“気を貰う”ことでの英気を養う効果。3)そして、いつも私が楽しんでいる、巨木を見ることでのリラックス効果等である。

これまで、私の見てきたいくつかの老木を紹介させてもらう。

まずは、東京都奥秩父の東端に聳える雲取山(標高2,018m)の頂上付近の“桂”の大木である。一般に桂の木は碁盤や将棋盤にも用いられ、素直な木目が特徴である。登山道の脇に自生し、丁度一息入れる場所にあるこの巨木には、沢山の小鳥が囀り、癒された夏の思い出がある。(写真参照)

次に思い出すのは、熱海の来宮神社の“大楠”で、これは樹齢2,000年以上で、精霊が宿ると言われている。いわゆる観光のついでに見た大木だが、苔むした姿には癒された。

次に紹介するのは、神奈川県津久井町と山梨県道志村の間に横たわり丹沢山系の最北部に聳える大室山(標高1,587m)山頂近くの、稜線に乱雑に並んだのブナの大木群である。この中に、樹齢は分からないが、風雨に耐えて来た山毛欅(ぶな)の大木には、蔦が絡み、さらに30cmもありそうな“猿の腰掛”がいくつも付いた姿は圧巻である。観光案内誌には、原生林、森林浴、渓谷美が売り物にしてある。

次は私の住む町の氏神様である川尻八幡神社の“神木”の話である。これは樹齢500年と伝えられている『裏白樫』の老大木である。この木の脇には、“木の幹を触ってみて、体感して欲しい”と案内してあり、私はいつも触っているので、いずれご利益があると思っている。

日本で愛でられる老大木は杉、椎、樟、銀杏などが多いようだ。

海外に目を向けると、アメリカのヨセミテ国立公園の巨大な”セコイア”も印象深かった。この原生林の大木の根元には、可愛い栗鼠が走り回っていた。近くにはカリフォルニア・トンネル・ツリーと言う、幹の根元を車で通過できる老大木もあり大きさに驚かされた。この公園の中では、狼の一種である“コヨーテ”が突然崖の上から滑り落ちてきて、そのまま、反対の崖に走り去ったのを思い出す。

 

ニュージーランド北島のトレッキング・コースでは、世界でもここでしか見られない、“カウリ”の巨木を見た。その内の“タネ・マフタ”と名付けられた樹齢2,500年の大木は、原住民に「森の神」と呼ばれ、敬われているそうだ。過去にこの中の巨木は、マゼラン以後の艦隊がイギリスに持ち去り、木造船の材料に使った。そのため、今では、2,000年を超す大木は貴重なものになっているそうだ。

最後に紹介するのは、八劔神社の境内にあった銀杏(いちょう)の大木である。この木は小学生時代に遠足の行先である福岡県の遠賀川流域にあった。推定樹齢が1,900年で、幹回りがおよそ10mとのことだった。この木には気根と呼ばれる乳房の様な樹皮の垂れ下がりが幾つもあって、母乳の少ない人は、これを煎じて飲んだそうである。この大銀杏は、日本武尊が熊襲征伐の時に、この場所で砧姫(きぬた姫)に出会い、その後、蝦夷征伐に向かうことになり、再会を約束してこの木を植えた。その後、病で戻る事がなく、二人の悲恋で終わった。今では天然記念物となり、隣人を喜ばせている。(写真参照)

樹木は自重を支える必要から、根元に近いほど太い。これは、視覚的な安定感を感じさせる。一方で、巨木に巻き付いて延びる蔦は、自重を支える必要がないので、茎が一様な太さである。しかし、老木の枝振りと葉の豊かさを高め、一層視覚的な魅力を持たせてくれる。蔦は秋に紅葉するものが多い。親木とそれが巻き付いた蔦の葉の、紅葉時の色のハーモニーは素晴らしい。

 

なお、老大木の魅力のポイントは、長い歴史の間に起こった幾多の出来事に静かに耐えてきた、風雪にも負けない重厚な姿にあると感じる。

日本は、OECDの中では、フインランドに次ぐ“森の国”だそうである。特に、炭酸ガスを吸って酸素を出す特性から、地球温暖化防止策としても、世界の各地に有る樹木の保存と育成は重要である。そのことが実現できれば魅力ある巨木も増えて来るだろう。